「企業に何十億ドルものバリュエーションが付く理由 ──企業価値評価における定性分析と定量分析」を読んで

企業に何十億ドルものバリュエーションが付く理由 ──企業価値評価における定性分析と定量分析(クリックするとアマゾンのページに飛びます)

今流行の足元赤字だけどトップライン伸びまくっているから買うという理論をもとに、超絶に高いPERのグロース株を評価するための教科書と言えるかもしれない。

・バリュー株とは全く異質なグロース株の会社価値算定
この書籍では例えばだが古典的な会社価値評価であるベンジャミングレアムのような現在見えている現金・固定資産・流動性資産・有利子負債・キャッシュフロー・利益をもとに計算するやり方とは全く異なることを言及している。
バリュー株信者の方には、この書籍はまるで仮のストーリにさらに仮前提を置いて計算した砂上の楼閣ではないかと反発する人もいるだろう。
しかしビジネスの変化が昔より非常に早く変化する中、さらにVCやPEの拠出資金が増加していく中で、急成長する新興企業は借金をして先行投資してライバルを一気に引き離し、数年後あるいは十年後以上先の儲けに備えることが当たり前と考える派が増えつつある。

ストーリーから数字へ落とし込む
ストーリーだけに夢中になるのも駄目だし、数値にだけこだわるのも駄目だというのがこの書籍のスタンス。
ビジネスの成否というのはストーリーテリングが優れているかどうかによって大きな差が生まれる。
特に創成期の企業ほど、この重要性は高い。
優れたストーリーテリングがあって初めて人が動き、そしてビジネスが回る。
だからこそ新興企業の企業価値計算において、将来のストーリーがどういう形になるのか考えることが非常に重要だ。

しかし、ストーリーテリングがお伽話・単なる荒唐無稽な話ではないかどうかは確認していかなければいけない。
ストーリーテリングをそのまま落とし込んでいったら、市場規模を超えたり、その国の経済規模を超えていたり、利益率が100%を超えていたりという無茶苦茶な前提になっていたりして、それが企業価値算定に組み込まれてしまっているおそれがある。
なので、ストーリーの実現性の信頼性・妥当性を考え、数値に落としこんでいくことが必要だ。
想定についてはProbable(確からしい)・Plausible(もっともらしい)・可能性がある(Possible)までを考慮に入れ、ありえない・信じがたい・ありそうもないことは排除していかなければいけない。
ひと昔前はストーリーを査定するための数値・データを手に入れるというのは非常に大変だったのだが、今やあらゆる数値・データが安価かつ非常に速いスピードで手に入れることができるようになった。
こうしたことも、このストーリーテリングを数値に落とし込んで企業価値算定を行うことが一般化しつつあることの背景にもある。
ただし、数値は数値でばらつき・偏りなどの様々なバイアスがかかるため、こうした問題も頭に入れながら前提数値を考えてほしい。

・UBERの企業価値算定
特に注目すべき項目はUBERのバリュエーション評価だろう。
この書籍ではUBERの評価額は60億ドルど算定しており、その算定基準としている将来のストーリーを以下のように分解して計算している。
①市場規模
筆者は都市のカーサービス産業の市場規模がUBERのメイン市場であると仮定している。
UBERの評価においては、この市場規模において郊外も含めるかどうか、および自家用車市場のオプション市場も入れるかどうかで大きく変わるが、筆者はここはUBERの現状の延長線上で考えることは難しいと考えた。
現在の都市のカーサービス産業の市場規模は統計データから1000億ドルであり、この中でUBERは新しいライドシェア企業として10年目までは年率6%成長すると置いている。
また、10年目以降はこれが2.5%成長にまで鈍化することを前提にしている。

②市場シェア
現在の市場シェアは1.5%だがこれが10年目に10%になることを前提としている。

③ドライバーへの収益分配
20%でずっと維持されることを前提。

④営業利益率
現在の3.3%が5年目までに40%になることを前提

⑤再投資
資本回転率5と資本集約度の低いビジネスモデルのレベルを前提

⑥資本コスト
10年目まで12%、10年目以降は8%を前提。

以上の前提をもとに筆者が算定したUBERの企業価値は60億ドルとなった。
足元の株価でのUBERの時価総額は57億ドルとかなりニアピンしていることから、この筆者の想定ストーリーと落とし込んだ数値というのは妥当性が高いということだろう。
ただ、一方で筆者が想定したストーリーと数値に基づいたアマゾンの企業価値評価は全然大外れしたことを告白しており、計算の難しさを改めて示している。

ただし、一度想定したストーリーは常にまだ正しいのか点検する必要性がある。

これは別に上記グロース株の価値評価に限らず、投資の全てにあてはまることである。
例えばあなたが別の将来ストーリーを前提に評価し、UBERの時価総額は60億ドルよりもっと高く、現在の時価総額は安いと考えてUBER株に投資したとしよう。
しかし、ビジネスというのはある意味生き物であり刻一刻と状況は変化する。
新しい競合の参入・規制の変化・コスト構造の変化・市場規模の成長率自体の変化・経営陣の入替による戦略の変更など、評価算定している最中に仮決めしたストーリーにおいて変化しかねない材料は見つけることができるだろう。
そしてストーリーが変化すれば、会社価値の計算において決めてきた数値が変化していくと、もちろん会社価値が変化することに伴って、株価がフェアバリューであるかどうかが変化していく。
なので常にニュースを追いながら、あなたが前提としてきた将来ストーリーが変わっていないかどうかをチェックしなければいけない。

企業に何十億ドルものバリュエーションが付く理由 ──企業価値評価における定性分析と定量分析