「グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし」を読んで

グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし
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読んで非常に勉強になったし、株式投資においても個別銘柄のピックアップに役に立つ考え方がいくつもあったので、ここが重要かなと思うところだけ抜粋。
実際はもっと分量の多い書籍であるので、興味があったら実際に読んでみた方が良いと思う。

①昨今のグローバルサプライチェーンの潮流

これまでの産業の高度化というのは手順が決まっていて、韓国や日本が辿ってきたようなフルラインナップで工業を揃えていくことが必須と考えられていた。
その理由としてまだ世界的に貿易コストというのが高いことに加えて、まだ情報技術も発達していない世界では工場が一つの地域に固まって全ての工程を行わなければ安価な商品を作ることができなかったからだ。
いわゆるまだ国内分業というのが主流であった。
しかしコンテナの発明・IT技術の発達・関税の引き下げなどにより各工程を分解して最も価格の安いところで製造を行えば最もコストパフォーマンスが良くモノの製造ができるようになった。
つまり国際分業が可能になったのだ。
ここで米国企業が取った戦略はこの各工程を分解して指図できるプラットフォーマーになって稼ぐこと、そして一部新興国ではこのバラバラにされた工程の中からピンポイントで王者になれる部分に特化した発展の仕方を行うようになった。
台湾はその一番典型的な例で、PC等の電化製品と半導体の中間部品の製造に特化することによってグローバルサプライチェーンの一部工程において覇権を取り、大成長を遂げることに成功した。
これが昨今のグローバルサプライチェーンの潮流である。

②グローバルサプライチェーンの輪に入れない新興国の運命

しかし文章の中で気になる点として、足元でグローバルサプライチェーンに入ることができなかった新興国についての今後の成長は厳しいのではないかという話だ。
現在の新興国の成長モデルはグローバルサプライチェーンに入れるかどうかに大きくかかっているといっても過言ではない。
グローバルサプライチェーンに入ることができれば、巨額の貿易黒字を稼げるようになり、それによって稼いだ外貨を原資に国内のインフラ投資や海外への投資に使用していき、国の成長を一気に加速させることが可能だ。
しかしそのグローバルサプライチェーンの中に入れていない新興国は輸出を増やそうにも需要があるのはプランテーションで栽培される農作物と資源ばかりで、外貨獲得の成長力というのは非常に期待しづらい。
加えて、昨今ロボット技術やロボットにインプットして動かすことのできる能力がAI技術の進化で自動化のレベルが上昇してきており、変な新興国にサプライチェーンを築くよりは、先進国や既存のサプライチェーンに組み込まれている新興国に新規工場建てた方がコストが安いという結果になるようだ。
こうしたことから徐々に新しい新興国がグローバルサプライチェーンに入る余地が狭まってきてしまっているのではないかと言われている。
グローバルサプライチェーンに入れていない地域と言えば、やはりアフリカ・中東・中央アジア・メキシコ以外の南米であることは想定しやすく、つまりこれら地域に夢見れるような成長率の上昇というのは少し期待しづらいのではないかと思われる。

③先進国でも新興国でも所得格差を発生させる原因になるグローバルサプライチェーン

現在世界中で広がっているグローバルサプライチェーンの仕組みは先進国でも新興国でも所得格差を拡大させている原因になっているとのことだ。
先進国企業では米国を始め、付加価値の低い仕事を新興国にアウトソースし、余ったリソースを付加価値の高い仕事に寄せていく。
そのために付加価値の低い仕事から高い仕事により資金が回るようになり、高技能労働と低技能労働の間の所得差が拡大する原因になっている。
しかし先進国から付加価値の低い仕事は新興国にとっては付加価値の高い仕事であったりもする。
そのため新興国でも高技能労働と低技能労働の差が拡大していっている。
ただし先進国ではグローバルサプライチェーンの整備に伴うサービス業の拡大という点もあり、先進国ではこうしたサービス業がどれだけ製造業喪失で失った雇用をカバーできるかが重要だろう。
ただ実際カバーできないほど所得格差が広がっているので先進国、特に米国で保護主義的な動きが出ている。

④グローバルサプライチェーンが複雑化して歪む貿易統計

この書籍ではiPhoneの例が出ていたが、500ドルで米国で売られているiPhoneのうち付加価値ベースでどういう配分で各企業が収益をあげているのかが分解されたいた。
500ドルのうち米国企業の取り分が‘332ドル(ただしアップルだけでなく、営業・販売・アフターサービスなどの流通マージンが入っている)、日本・ドイツ・韓国などが60ドルずつの取り分がある中、中国はたったの5-7ドル程度だという調査結果があるようだ。
これは中国が組み立て中心であることや、製造過程において多くの機械を違う国から輸入していることにある。
しかし貿易においては米国の対中国赤字というのはこの付加価値が全部中国に乗っている形で計算されてしまっている。
付加価値ベースに引き直せば実際の米国の対中赤字というのはそこまで大きくないのではないかという話であり、貿易統計も数字のまま解釈することが難しくなりつつある。
中国も今のままでは単に安価な労働力を使った低付加価値労働をしているだけということに気づいており、だからこそ中国製造2025という目標を掲げて、この製造業の付加価値取り分を増やそうと画策している。

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