ASMLの企業分析・株価分析

半導体製造装置企業としては非常に有名なASMLを今回は分析してみたいと思う。
ASMLは半導体露光装置を製造するオランダの企業で、米国上場している銘柄だ。
半導体露光装置とは半導体にレーザーを当てて回路を転写するときに使う装置のことであり、半導体の微細化において最も重要な装置とも言える。

損益計算書

かつてはこの分野はニコンの牙城であり、ニコンが露光装置のシェアを80%近く保有していた。
しかし、TSMCが台頭し始めたあたりからASMLがよりスループットを重視した露光装置の開発に成功したことに加えて、TSMCと密接なかかわりを持って行ったことから徐々にニコンのシェアは減少。
コスト構造の観点からもASMLはニコンより一日の長があったことから、どんどんASMLがシェアを上げていき、リーマン前ぐらいには既にニコンを超える状態になっていた。

そして決定的に差がついたのがEUVLの開発である。
EUVLは従来の光源よりも波形の短い紫外線を使うことによって、半導体のさらなる微細化を試みようというものであるが、これが開発に至るまでは非常に長く苦しいものとなった。
2011年頃ぐらいからEUVLの商業生産のロードマップが描かれていたが、ニコン・ASML両社ともなかなか実用化に至れるレベルのものを作れなかった。
そして元々露光装置のシェアを落としていたニコンが資金面でついていけなくなったことからギブアップ宣言をし、EUVLの開発を断念した。

ASMLも必ずしも順風満帆ではなく、TSMC・サムスン・インテルに資金援助をしてもらいながら投資家からまだ商業化できないのかとせっつかれながらなんとか開発していた。
そしてようやく実用に耐えるレベルのものを出荷できるようになったのが去年の出来事である。このEUVL開発の成功に伴い、実質的に半導体露光装置市場はASMLが独占したも同然という状態になった。
少なくとも当面は装置の値下げの必要性などはなく、顧客に対してちゃんとしたマージンを請求しながら商売できるようになったので、ASMLの株価変動は概ね半導体メーカーの設備投資動向に比例するという認識でよいだろう。

半導体メーカーといっても漠然としているので、もう具体名を言うとTSMC、サムスン、インテルの3社だ。
この3社向けで売上高の70%ぐらいを占めているだろう。

財務について注意したいのは売掛金と在庫である。(85、90行目)
ここにある在庫は顧客に納入するために作りかけているもの、また売掛金は顧客の検印待ちの分の金額である。
実はここに通常時ならなんでもないが、緊急時になると大きなリスク事象が発生することがある。
先ほど顧客がTSMC・サムスン・インテルに偏っているという話をしたと思うが、もしこの顧客達になにか財務や事業上の問題が起きたときどうなるだろうか?
これは実際にあった話だがリーマンショック時にこれら半導体メーカーは装置メーカーに対して在庫の引き渡しをキャンセルしてきたのだ。
そのせいで一部半導体製造装置メーカーは資金がどん詰まりかけたということもあり、顧客集中リスクが非常に大きい。

まだ在庫と売掛金の数値を見てわかると思うが、在庫回転期間が3-4ヵ月、売掛金が1.6ヵ月と、製造してから実際に資金回収できるまで4-5ヵ月もあるので運転資金サイドが比較的重いことは認識しておくべきだろう。
こうした状況を背景に企業サイドとしては実質有利子負債はゼロにしておきたいと思うのは自然の摂理だろう。(125行目)

営業利益率は粗利益率は実質市場を独占したということと、図を載せている期間は半導体市場が盛り上がっていっていた最中ということもあり、潤沢な利益率と高い売り上げの伸びを見せていた。(134、135行目)

財務内容と財務諸表

キャッシュフローもこうした業態であることから営業CFはなかなか安定しない。(49行目)
投資CFについてはEUVLの開発が完了したことから当面は少なめで推移するだろうが、いずれ次世代露光装置の開発がまた必要になるだろうから、その時はまた買収や研究開発に伴う投資CFが膨らむことは間違いないだろう。(61行目)
こうした安定しずらい業態およびCFを背景に自社株買い・配当金の還元率というのは米国企業一般と比べると低く、総還元率は現在の絶好調な状態であっても2%だ。(64、65行目)
なので、株価上昇には一にも二にもEPSの上昇が重要であり、株主還元が厚くなることは期待しずらいだろう。

PER

株価バリュエーションはどうだろうか?
足元のPERは30倍と平均よりお高めである。
しかも利益水準絶好調時のPERということを考えるとちょっと高すぎやしませんかと首をかしげたくなる位置にある。
なお、上記図の2021年のPERはおそらくバグのため無視してほしい。

ただこうした業態は必ずしもPERでの判断が全て妥当だというわけではない。
なぜならメタメタにやられてEPSが減少した状態での高PERという場合もあり、逆にこの場合は将来の回復を見込んでの買いという判断もできる。

しかし足元では半導体の高騰サイクルが一旦一周し、EPSが伸び切ったところでの高PERということでちょっとこの水準でやる気がでるかどうかといわれるとパスかなと思う。
ただ、一回株価が下がれば、前にも記述したように実質独占企業であるためお買い得感は出てくるだろう。